たび重なるケガと繰り返される手術、不倫発覚に始まったどん底人生など、これでもか、と多くの試練が待ち受けていたタイガー・ウッズの過去11年。幾多の苦難を乗り越えて、昨年ツアー選手権で5年ぶりに優勝し、メジャーではマスターズで11年ぶりに優勝した彼の言葉には、私たちの人生にも当てはまる、大事な教訓や考え方がある。今回はそんな彼の言葉からピックアップしてみたい。
ネバー・ギブアップ!
彼はマスターズ優勝後の会見で、記者から「人生や私生活でのトラブル、肉体的な問題に悩む人に、何かメッセージはないか?」と問われ、次のようにコメントしている。
「決してあきらめないことだ。当たり前だけど……常に戦うこと。あきらめたら、もうその先の道はないんだ。もちろん、常に戦い続けたからこそ、僕は今の位置にいるのだが、逆にその戦いによって引きづり降ろされることもある。ゴルフキャリアにおいても、人生においても、僕はとてもうまくやる考え方を持っていたが、それをちょっと変えて、違うことに取り組まないといけないこともあった。とにかくそのことに集中し、戦い続けるんだ。毎朝起きると目の前にはいつも挑戦することがあるが、戦い続ければそれらを切り抜けられるんだ」
「ネバー・ギブアップ」という言葉は、決して目新しい言葉ではないが、様々な苦難を乗り越えてきたタイガーが言えば、非常に説得力がある。不倫が発覚して離婚した時、あるいはSEX依存症でリハビリが必要だ、と言われ、それを世間に公表した時、タイガーは今までの人生で最も苦しい時期を過ごしていたのではないか。そんな時でもゴルフをすることをやめなかったから今がある。当時、きっと彼の財産があれば、ゴルフをやめても一生不自由なく生きることはできただろう。しかし、どんな困難があろうとも、ゴルフをすることをやめず、ツアー復帰をあきらめなかったからこそ、先日の感動的な優勝が生まれたのだ。あきらめずに扉を叩き続ければ、きっとその扉はいつかは開き、次のステップへと進むことができる。これはどんな人間に取っても同じこと。今、いろいろなことで苦しんでいる世界中の人々にとって、この言葉によって励まされ、光を見出すことができた人も多いのではないか?
1回できたことを自信に変える
タイガーは昨年、「ツアー選手権」に勝つことで「自分はまだ勝てる」と大きな自信を持つことができ、今回マスターズでも優勝することができたという。彼自身「ツアー選手権での勝利」を「ビッグ・コンフィデンス・ブースター(大きな自信の増幅器)」と語っているが、こうした成功体験を大きな自信に変え、迷うことなく次の目標に向けて取り組む、ということがいかに大事な成功の秘訣となっているか。一度は優勝できても、「まぐれだったのかも……」とか「また勝てるとは限らないし、自信なんて持てない」と弱い気持ちでいたのでは、次の成功もないということだ。おごりや油断は禁物だが、タイガーのように、「一度成功したことは、自分にできること」と認識し、次のゴールに向かって自信を持って迷いなく突き進むことが、成功への道だと教えてくれている。
大きなことを成し遂げる前に、目の前の小さなことを積み重ねる
世界のトッププロたちも、マスターズで優勝したいからといって、特別なことをするわけではない。タイガーの場合は6ヶ月前にマスターズに向けて準備を開始し、マスターズの週にピークが来るように調整していたという。なかなかその「ピーク」をマスターズの週に合わせることができないから難しいのだが、タイガーは見事にそれをやってのけた。まるでこれはマスターズが、つづじの花がマスターズ週に満開になるよう調整するのと似ているかもしれない。早く咲き過ぎてもいけないし、咲くのが遅くてもダメ。ゴルファーにも調子の波があり、好調と不調が交互にやってくるものだが、その波をドンピシャにマスターズに当ててこないと優勝は難しいのだ。
だが、好調の波を当て損じないようにするために必要なことは、「すべての小さなことを正しくやり続けること」。ミスしたとしても、大ケガのない正しい場所になんども運び続け、ボギーを叩いても、そのことに引きられずにやり過ごす。そして目の前の1打1打を大事に積み重ねていくことが大事だと語っている。つい大きな夢を見がちだが、その前に地味にコツコツと正しいことを積み上げていかなければミラクルも起きない。彼がメジャー15勝、ツアー81勝を挙げてこれたのも、この小さな積み重ねから始まっているのだ。
柔軟な対応が長続きの秘訣
97年、21歳3ヶ月でマスターズに初優勝したタイガー・ウッズも今や2児の父であり、43歳。いくらトレーニングをしっかりやっているタイガーでも、体力の衰えや体の変化は止めることができない。ケガをし、何度も手術していることもあって、「もはや昔の若い頃の体ではない」「練習も、昔のように長時間、一つ一つに渡ってやることはできない」とよく自覚している。だが、今もなおツアーで戦える飛距離とショットの精度を持ち合わせているのは、年々進化を遂げているクラブに頼る、という考え方に変わっているからだ。
以前のタイガーなら、決して「カチャカチャドライバー」は使わなかったし、そもそもあまりクラブを変えるタイプではなかった。
「クラブを最後に変えたのはマッチプレーの時。ドライバーと3Wのシャフトをちょっと軽めのものに変えたのは、首に違和感があるからだ。軽めの方が体に負担をかけずに振り抜けるし、弾きがよくなるので、飛距離も多少伸びるからね。アイアンは、あちこち改良を加えているが、基本的には昔から使っているものとあまり変わらない。ウェッジに関してはソールの削りの違うものを芝の種類ごとにいろいろと使い分けているが、これが最も大きな変化の一つだろうと思う。そしてグルー(粘着剤)で装着したホーゼルではないタイプのクラブを使うことも大きなチャレンジの一つだった。今まで使ったことがなかったからね。今はテーラーメイドのスタッフの人たちにいろいろやってもらったり、ジェイソン(デイ)、ローリー(マキロイ)やDJ(ダスティン・ジョンソン)らの知恵を拝借して、今どきのクラブのテクノロジーを理解し、球の打ち分けもできるようになった。今でも取り組んでいる最中だ」
もともと小ぶりのヘッドのドライバーと、マッスルバックのシャープなアイアンが好きなタイガーで、新製品が出てもすぐに飛びつくタイプではなかった。人一倍、クラブにはこだわりがあり、頑固なのである。現在では体の変調、年齢とともに軽めのシャフトを試したり、シャフトを簡単に入れ替えることのできる「カチャカチャドライバー」を試すという柔軟性も持つようになった。若い頃の体力や動きができないことを十分認識しているからこそ、「フィーリング」よりも「やさしさ」や「結果」を求める方に重点を置いているのかもしれない。このような時代の変化を受け入れられたタイガーだからこそ、これからも長く活躍できるのだ。
タイガーの優勝に他のプロたちの反応は?
●フランチェスコ・モリナリ(5位タイ、11アンダー)
最終日、単独首位でスタートしたモリナリ。12番ホールと15番ホールで痛恨のダボを叩き、優勝争いから離脱した。
「もちろんタイガーが調子良くプレーしているのを見るのは素晴らしいことだったよ。去年、一緒に彼とプレーしていて遅かれ早かれ、この瞬間がくることはわかっていた。正しいショットを打つべき時に打ち、優勝に値するプレーだった。彼の歴史や復活を目の前で見ることができたんだから、こんなに素晴らしいことはない」
●ザンダー・シャウフェレ(2位タイ、12アンダー)
バック9に入って、11番、13番、14番でバーディを取ったものの、タイガーにあと1歩及ばず。
「今回の状況はとてもユニークだ。(負けても)全然悲しくないんだから。最終ホールでキャディに、僕たちはこの場所で勝てるってことは証明できたねって言われたんだ。タイガーが18番から歩いてきたのを見た時、懐かしかった〜。赤のタートルネックを着ているのを見て、僕が子供の頃に見たそのものだって。今では彼のことをほんの少しでも知るようになって本当に最高。彼にはおめでとうって言ったよ」
●ブルックス・ケプカ(2位タイ、12アンダー)
最終日バック9で、12番のパー3でダボを叩くも、すぐ次の13番ホールでイーグル、15番ホールでバーディを取り返した。
「僕は彼とのバトルをエンジョイしたよ。今回は僕よりも彼のほうがよかっただけ。楽しかった。彼もかなり興奮していると思うけど、こういうことがまたあればいいね。昨年、全英オープンの時にも言ったけど、彼はもう勝つ準備ができていたと思うよ」
●トニー・フィナウ(5位タイ、11アンダー)
最終日、最終組でタイガー、モリナリとともにスタート。バック9では1イーグル、3バーディ、1ボギー、1ダブルボギーと出入りの激しいラウンドとなった。
「今日は僕の小さい息子が来ていたが、将来彼にはタイガーが15勝目を挙げた時、僕もいたということを伝えるつもりだ。タイガーのことや、彼が今までにゴルフ界のためにやってきたことは語りつくせない。15勝できてよかった」